2009年01月10日

『超能力部隊』ロバート・A・ハインライン

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ロバート・A. ハインライン

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(あらすじ)
 惑星一つを爆発させるほどの威力を持つノバ効果。
 FBIのジョウ・グリーン(ギリアド大尉)はノバ効果についてのマイクロフィルムを運ぶ任務を与えられる。
 しかし、世界支配をたくらむ億万長者ケイスリー夫人の一味に捕らえられる。
 牢獄で一緒になった謎の男ボールドウィンに助けられて脱出するが、マイクロフィルムはボールドウィンの一味に奪われていた。
 FBIから裏切り者扱いされたギリアド大尉はボールドウィンを訪れ、彼がスーパーマンによる超能力部隊の支配人だと知る。
 ボールドウィンの一味に加わることになったジョウは超能力の訓練に明け暮れる。
 やがてケイスリー夫人がノバ効果の秘密を手に入れたことが明らかになり、ジョウはゲイルと共に月の裏側にあるケイスリー夫人の別荘に乗り込むが……。
   
(感想:R指定?衝撃のノンストップハードバイオレンスSF!)
 FBIの優秀な捜査官だったジョウは成り行き上、ボールドウィンの超能力部隊に仲間入りする。
 いま地球にいる人類の次に現れる新しい人類、その新しい能力とは、「もっとふかくかんがえることができる」こと。
 その能力の開発のため、ジョウは色々な能力開発訓練を受けます。
 文字を素早く読み取る訓練をはじめ、透視、念力、テレパシー、高速語……。
 悪用されると恐ろしいことになる。ボールドウィン達が本当に理性的な善人達でよかった。

 
「ジョウ、きみは、わるいやつを、みなごろしにしたいとおもったことは、ないかい?
 社会のがんといわれるやつらだ。われわれは、死んだほうがいい人間のリストをつくってあるんだ。そいつらがもし、はめをはずしてしまったとき、われわれはすぐにカタをつけることにしている」

 
……と平気で言うボールドウィン。
 ジョウの先生役でもあり、後に仕事上のパートナーとなったゲイルも、若い少女でありながら
「300人以上の人間を殺してきた」
と言う。

 
 日本人的なメンタリティというか、私が普段読んだり見たりしている物語では、こんなことを言う連中は大概悪人と決まっている。正義のための暴力は存在しない、という立場。例えば手塚治虫の作品もその系統である。
 しかしハインラインのこの物語では、そういう正義が存在する。
 解説によると、ハインラインは小さな頃から能力が非常に高く、軍人としても優秀で活躍して出世していたという。
 第二次世界大戦中には作家活動を停止してレーダーの研究に没頭し、戦争が終わってから再び作家生活に入り、名作を次々と出版。
 こういったアメリカン・ドリームというか、アメリカのパワーを象徴するかのような活躍をしたハインラインの作品はアメリカの正義というか、アメリカの国家観を現しているようで、特にこの作品はマッチョイズムというか、ノンストップバイオレンスのハードな作品なのだ。

 
 例えば、ジョウがケイスリー夫人に捕らわれた時。
 マイクロフィルムのありかを白状させるためにケイスリー夫人は酒場のウェイトレスを拉致して来る。
 このウェイトレス、ジョウが捕まる前に酒場で少しだけ会話しただけの脇役。まさか再登場するとは思ってもいなかった。
 ジョウの口が堅いので何の関係もないウェイトレスを裸にして拷問して口を割らそうという作戦。

 
「ギリアド大尉は、なにもしなかったし、なにもいわなかった。かれがまもろうとしているマイクロ・フィルムのチューブには、何億もの人間の命がかかっているのだ。このむすめひとりの命など、問題にならなかった。」

 
 結局ジョウは口を割らず、ウェイトレスは殺される。トラウマになる展開である。しかもこのウェイトレスのオールヌードのかわいい挿絵も描かれている。残酷に殺されるキャラならば挿絵があると駄目ですね。一つのキャラとして人格や存在感が出てきます。残酷に殺されて存在がなくなるのであれば、始めから挿絵を入れない方が良かった。

 
 私がよく読んだり見たりする物語では、このような場合、人質を助けようという行為が行われ、人質は助かる。これが物語の典型的パターンである。ベタな展開とか予定調和ともいいます。
 ついこの前みた『仮面ライダーX』の第三話 でも、アダブ王国のキバラ特使は人質となった親子を助けようとしている。(しかしハインラインと仮面ライダーXの対比はおかしいが)
 ともかく私がいつも浸っているのは
「人一人の命は地球より重い」
という世界観を持った物語。
 今回読んだハインラインの『超能力部隊』は、そういった甘っちょろい世界観とは正反対の世界観を持っている。
 目の前の一人の命と、それを助けることによって危険にさらされる多くの命を厳密に冷徹にはかりにかけて比べているわけである。

 
「人一人の命は地球より重い」世界観
「人一人の命を冷徹に相対化する」世界観

 
 確かに、現実の世界で考えると後者の世界観を持つ方が強い。
 人質の命を助けようとして成功するのは物語の中だけの話かもしれない。現実の世界では、人質の命と人質の命を助けるための犠牲をはかりにかけると、犠牲の方が圧倒的に多いこともある。
 現実の世界で議論すれば、或いは現実の戦いで戦えば、後者の世界観を持った方が圧倒的に強いであろう。
 人類の歴史が適者生存・弱肉強食中心で進んできたとしたら、後者の思想を持つ方が有利だったろう。
 私などは平和で民主的な時代だからこそ辛うじて生存できる負け組・下流・ワーキングプアである。ひとたび乱世や戦国の世が来れば真っ先に生存競争から落伍して死んでしまう人間である。
 だからどうなんだと言われれば結論はないのであるが。結論は出ないまでも、この物語を読んだ夜、寝る前に上のようなことを考えたのである。


 さて超能力部隊の支配人ボールドウィンはノバ効果を発見した偉大な科学者でもあり、ヘリコプター販売会社の社長という、実業界でも頭角を現している能力者。
 このボールドウィンとの出会いがジョウの人生を変えたのである。
 しかし何でボールドウィンはケイスリー夫人に捕らわれていたのだろうか。ボールドウィンほどの能力があるのならば、そもそも捕まるはずはないだろうに。もし殺されていれば大変なことになっていた。
 ボールドウィンとケイスリー夫人の間に何があったのか。完訳版では記述があるのだろうか?

 
 そして、存在していないはずだったノバ効果のマイクロフィルムのコピーをケイスリー夫人が手に入れる。
 世界征服をたくらむだけあってケイスリー夫人もアメリカ国家やFBIを出し抜くほどの強力な組織を持っているのである。このあたり、どのようなドラマがあったのだろうか?

 
 ジョンとゲイルは使用人夫婦として月植民地のケイスリー夫人の別荘に潜り込む。
 そこでケイスリー夫人とノバ爆弾を葬り去ることに成功するのであるが、二人も犠牲になる。
 この最後のクライマックス、実にスリリングである。映像にすれば名場面になること間違いなし。

 
 ジョンとゲイルは任務に成功するのであるが、結局ノバ爆弾と共に爆発してしまう。
 これもジョウがウェイトレスを見殺しにしたのと同じく、2人の命とノバ爆弾で危機にさらされる人々の命をはかりにかける相対的人命観による結果であろう。2人が無事に任務を遂行して生き延び、結婚してその後幸せに暮らすとかその後シリーズ化するというような展開も考えられたが、あえて2人を殉職させて完結させるという結末を選んだ御大ハインライン。

 
 この2人の行動原理は、太平洋戦争中に日本が行ったカミカゼ攻撃や現在もよく行われる自爆テロにもつながってくるのではないだろうか?

 
 主人公が死んでしまう結末で、これもまたショッキング。
 寝る前に一気に読んでしまったから余計にこたえた。ジョンの成長やゲイルとの出会いなど、かなり感情移入していたので。一度本を置いて頭を冷やすべきだった。
 特に本書のような超ハードで燃える展開・しかも主人公が死んでしまう物語は一気に読んでしまうとその後の脱力が怖い。

 
 ということで大人になった今、子ども向けの翻訳を初めて読んだわけであるが、なかなかハードでスリリングでノンストップなバイオレンスでかなり神経にこたえた。
 子どもの頃に読んでいたらどんな感想を持っただろうか?その後どんな風に読み返し、思い出しただろうか?
 確かに成長の過程で世代によって読んでおくべき本というのは存在する。子ども向け名作・SF・推理全集の類は小中学生の間に図書館に入っている本をできるだけ多く読んでおくべきだろう。
 本書もぜひとも読んでおくべきだったと後悔。完訳版も読んでみたいと思う名作である。
 しかし本書は徹頭徹尾SF、SFの中のSFだよなあ。今の子ども向け全集では“SF”という用語は使わないんだろうか。“冒険ファンタジー名作選”なんていうシリーズ名になってしまったけど、私の子どもの頃は「SFこども図書館」「<エスエフ>世界の名作」というシリーズ名で出ていたのに。今は“SF”というより“ファンタジー”という方が通りがいいんだろうか。

 
 なお、本書の翻訳者は矢野徹。
 巻末解説はハインラインへの思い入れが感じられる。
 ウィキペディアには「ハインラインを師と仰ぐ。」という記述が。
 鶴書房SFベストセラーズの矢野徹『新世界遊撃隊』を読んだことがあるが、まさにこの『超能力部隊』と似た香りを感じさせるノンストップハードバイオレンス作品で、速い展開についていくのに苦労する私は脳みそをかき回されるような展開を味わった。

 
※なお、ジュブナイルとしては他にあかね書房少年少女世界推理文学全集19 『人工頭脳の怪/ノバ爆発の恐怖』(内田庶訳 松下勲=絵 1965年) があり、
完訳は『失われた遺産 (ハヤカワ文庫 SF 482 ハインライン傑作集 1) 』 に収録されている。

 
マスターの独り言 SFこども図書館4.「超能力部隊」
  http://cheerdown.blog7.fc2.com/blog-entry-753.html
 
復刊ドットコム 超能力部隊(SFこども図書館4)
  http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=16436
  
ロバート・A・ハインライン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BBA%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3
矢野徹
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2%E9%87%8E%E5%BE%B9


30年ほど前に、小学校の図書館で繰り返し読んだSF小説なのですが、どうしても...
  http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1080515745
   ↑ご紹介ありがとうございます。
はてなブックマーク>アニメとゲーム>『超能力部隊』ロバート・A・ハインライン
  http://b.hatena.ne.jp/entry/sfkid.seesaa.net/article/112424091.html
   ↑ブックマークありがとうございます。


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posted by SF Kid at 17:57| Comment(1) | TrackBack(1) | 空想科学小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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“麒麟がくる 第10回「ひとりぼっちの若君」”
  https://diletanto.hateblo.jp/entry/2020/03/26/184546
  ↑TB代わりのコメントです。
Posted by 市井學人 at 2020年03月26日 19:00
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