2015年02月27日

月世界2008年 福島正実が予見した21世紀初頭の日本

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   ★月世界2008年 (旺文社文庫)


 30篇の短編小説が収録されています。
 長さだけを見れば、「ショートショート」とも言えます。
 しかし、裏表紙の内容案内では
「現実に起こりうる話をSFタッチで巧みに描いた短篇を収録」
と書かれています。
  


 昔、星新一のショートショート集の解説で、ショートショートの定義の一つとして、
「意外な結末」
が挙げられていたことを覚えています。


はてなブログタグ ショートショート
  ↑ここに挙げられている定義が出典でしょうか?

  
 それを思うと、本作品集は、意外な結末があるのかと思って期待しながら読むと、肩透かしを食うような結末が多いです。
 フランツ・カフカの『変身』で、どのような結末があるのかと思いながら読んでいると、何のことはなく淡々と終わってしまったような感じです。
 そう考えると本作品集は、ショートショートというより、純文学の短編小説寄りなのでしょう。
 純文学の作品は重苦しい作品が多いように思うのですが、本作品集は重苦しい作品も多く、やはり純文学寄りです。

 
 巻末の5ページ足らずの森優(南山宏)さんの解説


着られなくなったジャケット
 私なりのレクイエム
 

が読み応えあります。

  
「明らかにSFの本質的文学性への懐疑、自分の夢見た理想のSF界と現実とのはなはだしい懸隔、そこから必然的に生じたSF作家たちとの因縁的対立があったのだ。
 もっと端的に言えば、福島さんは自分の創ったはずのSF界に、そしてSF自体に“裏切られた”のである。むろん私自身もその意味では裏切り者の一人だった。二代目編集長の私が、彼の志向するSF文学路線を受け継がずに大衆路線を敷き始めたとき、彼は無言という形ではっきり拒否の意思を伝えてきた。」



「福島さんの描いていた理想像とは程遠い。職業編集者として商業戦略上からは理解を示したが、彼が真に愛したSFは少なくともそこにはない。」


「でも、ひょっとして福島さんの夭折は、結局のところ神の慈悲深い恩寵だったのかもしれないな、と思い直すこともある。私があのワイン・カラーのジャケットを着れなくなったように、現在のSF界は良くも悪くも、福島さんの願っていた形とはすっかり違ってしまっているのだから。」




 最後から2番目の、他の作品より少々長めの
『沈黙の夏』が現代の日本を予見しているようで興味深い。
 東京は公害で汚染され、スモッグが発生して小学校で集団中毒が起こり、死者も出るような状態。
 人々の肺は汚染物質で満たされ、首都圏の肺ガン患者は5年で2倍となった。
 しかし政治的な圧力で箝口令が敷かれている。


「確かに公害防止法はある程度公害の波及テンポを抑制した。だがそれは、いずれにしろ劇毒であるヒソを、大量投与して人を殺すか、それとも急死しない程度の量、長期間にわたって与えて殺すかの差にすぎない。しかも後者の場合、人体は弱りながらも少量のヒソに慣れ、その毒性を意識しなくなるのだ。企業防衛、GNP第一主義の公害対策はそうしたものでしかない。いや、国際的――地球的規模で考えられない公害対策は、結局GNPと企業とを優先せざるを得ない宿命を持っているんだ」

  
 主人公は、友人の医師から、空気のいい地方への疎開を勧められます。

  
「公害」を「放射能」に置き換えると、まさしく2015年現在の日本の現状そのものではないでしょうか。

 
 皮肉なことに、著者の名前が受難的色彩を帯びています。
「福島の正しい真実」
という意味を思わせる悲しいペンネーム。これは偶然の一致なのでしょうか。


   ★月世界2008年 (旺文社文庫)


  [wikipedia:福島正実]  [wikipedia:南山宏]


ショートショートの…
 福島正実のショートショート集
  http://short-short.blog.so-net.ne.jp/2009-05-31
復刊ドットコム『月世界2008年(福島正実)』 投票ページ
  http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=43077
メランコリア
少年少女SFアポロシリーズ 7 『月こそわが故郷』 福島正実 岩崎書店
  https://blog.goo.ne.jp/ska-me-crazy2006/e/29a828f735b12f8148b5a5341adee55e


  [wikipedia:ショートショート]  [はてなキーワード:ショートショート]


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posted by SF Kid at 20:46| Comment(1) | TrackBack(4) | 空想科学小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これからの19年間の詳細な情報です。長年の疑問が解消されれば幸いです。
 
2020年の前までには開始するであろう、全世界的に発生する大陥没現象(東京から真っ先に始まる。)物凄い勢いで人口減ってゆく事。
 
大変動期に突入した我々の社会。これらの情報を提示しています。
 
ttp://6928.teacup.com/kongonoyotei/bbs ( 閲覧パス 2034 )
 
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Posted by 使えるとこだけ使って下さい at 2015年03月21日 22:46
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