3月末でジオシティーズが終了になるので、引っ越し作業をしています。
「最近読んだ本より」コーナーに星新一『ブランコのむこうで』の感想文がありました。
「最近読んだ本より」コーナーはHPに置くよりブログの方が向いていると思い、こちらのブログに転載しておきます。
ブランコのむこうで (新潮文庫)
ブランコのむこうで ネタバレ感想
〜少年の成長を描く冒険ファンタジー〜
(注意:ネタばれあります)
星新一さんの作品は読みやすいので、小学生でも読む人いるのでは?
私が小学生だった頃も、結構星さんの本は人気ありました。
星さんはショートショートが有名ですが、私は長編小説も大好きでした。
『ほら男爵 現代の冒険』『夢魔の標的』『気まぐれ指数』『宇宙の声』……。
しかし、なぜかこの『ブランコのむこうで』だけは、読む機会がなかったのです。目録を見て、興味は引かれていたのですが。
今回、長年の希望かなってようやく読み終えることが出来ました。
いや〜、すばらしい。少年の成長を描く冒険ファンタジー。
小学生や中学生の夏休みの読書感想文のテーマにピッタリの名作だと思います。
学校の帰り道に自分のドッペルゲンガーに会った「ぼく」は、彼のたくらみによって、父親の夢の世界に入れられてしまいます。
そこは、父親が子ども時代に経験したお祭りの夢の中。
そこで「ぼく」は、3年前に亡くなったおじいさん、すなわち、父親のお父さんに会います。
もうすぐ父親が眠りについてこの世界に来る、という時、「ぼく」は木の穴に隠れます。
すると、また別の人の夢の中に移動してしまうのです。
このように、「ぼく」は、小さい場所に入ることによって、次から次へと他人の夢の中を冒険します。
その夢の世界で「ぼく」が眠れば、その夢の世界の持ち主の現実での生活を持ち主の目を通して知ることも出来ます。
何と面白いシチュエーションでしょうか。
しかもこの作品の味のあるところは、単なる冒険ではなく、少年の心の成長を描いている所にあるでしょう。
3 お城の王子
わがままにふるまっているピロ王子の夢の中。
「ぼく」は友達として迎え入れられます。
実は彼は、現実の世界では病気で寝たきりだったのです。
「ぼく」はふとしたことでピロ王子と喧嘩します。
王子を困らせてやろうと戸棚の中に隠れると、違う人の夢の中に移動してしまいます。
「ぼく」はこんな別れは悪かった、と反省します。
4 さびしい街
幼い息子を交通事故で亡くした母親の夢の中に迷い込んだ「ぼく」。
息子を探す母親と、叱られるのを恐れて母親から逃げている息子を再会させて、寂しい街を明るくします。
心理学的に興味深いエピソードです。
5 皇帝ばんざい
皇帝として独裁政治を行っている男。
現実世界の彼は、お人よしのために人に騙されて落ちぶれてしまってぶらぶらしているのです。
現実世界で気に入らない者を夢の中で処刑してウサを晴らしているのでした。
皇帝を怒らせた「ぼく」は兵士に追いかけられます。
逃げ回る「ぼく」は、ある家の住人にかくまわれます。
危険をも顧みずに助けてくれたその青年の顔をよく見ると、あの皇帝の顔でした。
「あのショボクレオジサン、不運な人生を重ねてきて、それをおぎなうため、夢のなかにむちゃくちゃな独裁国を作りあげてしまった。しかし、全部がむちゃくちゃじゃないんだ。純粋だった若いころのことが、あの青年という形で、少しだけここに残っているというわけなんだろうな……。」
これも大好きなエピソードです。
6 ほほえみ
表情もなく、バスを待つ人々。
そこに若いきれいな女の人を見つけた「ぼく」。
バスに乗って行ってしまう前に、一度だけ彼女の笑い顔を見たいと思った「ぼく」は、彼女に少しだけほほえんでもらった。
バスの運転手は、「ほほえみの残っている人は、だめなんです。」と言って行ってしまう。
彼女は眠り薬をたくさん飲んで自殺を図り、あのバスは死の国へのバスだったでした。
「ぼく」のおかげで彼女はよみがえり、夢の国も明るくなっていく。
おませな小学生め。
7 砂の上
催眠術にかけられている男の夢の中に迷い込んだ「ぼく」。娯楽的なエピソード。
8 道
道端で、小さな石を刻んでいるおじいさん。
彼は若い頃からこの道端で石を刻んでいた。
野心に燃えて立派な彫刻を彫ろうとしていたが、満足できる彫刻はできず、ついに石はここまで小さくなってしまった。
最後に、道に開いた穴にぴたりと入るふたを作ってからこの道を歩いていくつもりだ、と。
いいですね〜。哲学的なエピソードですね〜。
単にはらはらドキドキの冒険を描くだけでなく、こういった考えさせるエピソードがあるのがすごいところだ。
9 赤ちゃんたち
赤ちゃんが夢を見るとしたら、どんなのを見るのでしょうか。
今度は、赤ちゃんたちの夢の中に迷い込む「ぼく」。
恐竜の世界に20人くらいの裸の赤ん坊が。
「赤ちゃんはうまれたばかりで、世の中の生活を経験していない。だから、夢を見ると、そのずっとむかしの夢を見てしまうんじゃないかな。時代をさかのぼった、大むかしの人類の夢。いや、人類が出現する以前の世界の夢。生命の流れをさかのぼった、はるか遠い時代の夢を見るんだろうと思うな。それがこの光景なんだ。」
「きっと、赤ちゃんたちはみんなでいっしょに、この同じ夢を見ているんだろうと。だって、そうなるじゃないか。だれもうまれたてで、同じ条件なんだから、その見る夢もおんなじというわけなんだ。ひとつの夢をなかよく見ているんだよ。そして、それぞれが大きくなり、ちがった体験を重ねるにつれて、ちがった夢へと変化していく。そういうことなんじゃないかな。」
……と、心理学的に興味深い考察です。
「ぼく」は、しばらく赤ちゃんたちと一緒にいて、赤ちゃんたちが感情を覚えていくのを見守ります。
「大むかしの地球からつづいている生命の流れ、そういったものがぐっと胸に感じられる。」
成長したぞ、「ぼく」。
大きな、ぞっとするワニが現れ、赤ちゃんを狙ってきた。
「ぼく」は、ここで赤ちゃんたちを見捨てたら、赤ちゃんたちの心に悪い感情が残る、と考えます。
「あとから来るものをかばい、助けてやる。そのつみ重ねで人類はいままで進んできた。その歩調を乱してむちゃくちゃにしたら、リスにも劣ることになってしまう。さっきからの、生命の流れをじかに感じている気分が、ぼくにそんな決心をさせたのかもしれない。ここへ来る前の夢の世界にいたおじいさんの、あとの人のために道の穴をなおすという話を、ちょっと思い出したせいかもしれない。」
「ぼく」はワニと戦い、ワニに食べられ、ワニの口はふさがり……。
「ぼく」は、夢から覚めます。四日前に、学校から帰ってきてから熱が出て寝込んでいたのです。結局は夢だったんだ。
しかし、この4日ばかりの夢で、成長したものです。
病弱の少年と交流し、別れ別れの母子を再会させ、ショボクレオジサンの純粋な一面を発見し、自殺願望の少女を救い、おじいさんから人のために生きることを学び、生命の流れを体感して赤ちゃんを救おうとする……。
SF小説では宇宙や異世界の冒険がよく描かれます。この作品では、夢の世界という魅力的な世界の冒険を描いています。
私などは、あまりに面白くて、物語が終わってしまうのが残念な気がしたくらいです。
夢の世界の冒険、というと、私も、中学時代に、子どもの頃見た夢の中に迷い込む、という小説を描いたことがあります。
子ども時代に見た幾つかの印象的な夢をつなぎ合わせて夢の世界を作ったわけです。
死の国へ行くバス、というのも、テーマにしたことがあります。
修学旅行中、事故に巻き込まれたバスの中に、死神が現れます。
君達は死ぬ運命にある、最後に一つだけ見たい夢をかなえてあげる、と言うのです。
みんな、見たい夢のリクエストを死神に言っていきます。
「宇宙創生からの歴史の夢を見たい」というリクエストは、私が見たいものでした。
最後に残った一人が、「僕は夢なんか見たくない、生き残りたいんだ」と言います。
死神は、
「あなたのように夢より生に執着する人が生き残るのです」
と言います。
そしてバスは事故に巻き込まれ、その少年だけが生き残るのです。
まあ、中学時代の創作活動を思い出しました。
脱線して中学時代の創作活動の話になってしまいました。
創作に熱中していたあの頃の情熱を取り戻したいなあ。
ともかく、この『ブランコのむこうで』、読み終えると、きっと心の中が温かくなることでしょう。
小中学生の夏休みに読むのにピッタリの物語です。
そして、残念ながら小中学生時代にこの物語を読めなかった人にとっても、感動を与えてくれること請け負います。
2002.8.11(日)
星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫) - 最相 葉月
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