3月末でジオシティーズが終了になるので、引っ越し作業をしています。
「最近読んだ本より」コーナーに雑誌『空中都市008』の感想文がありました。
実はこの項目、あまりに政治的主張が強いということで自粛して目次リンクから外していたのです。
ところが、サーバーから削除せずにそのまま残っていました。
現在読み返して、削除するには惜しいので最小限の手直しをしてこちらに保存することにしました。
空中都市008 アオゾラ市のものがたり (講談社青い鳥文庫)
アオゾラ市のものがたり
『空中都市008』
(小松 左京・著/和田 誠・絵 1968年作品)(講談社青い鳥文庫S60年6月10日)
(あらすじ)
科学の粋を集めた未来の夢の空中都市・008。
ホシオくんとツキコちゃんは両親と一緒に引っ越してきます。
二人が体験する地下道や海底や月での大冒険。
さまざまな出会いから、ホシオくんは、次の時代のためにがんばって働く人々がいることに気づきます。
作者による未来の都市技術の解説もついた、子どもたちへ贈るユーモアたっぷりのSF。
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(感想:失われた21世紀!現実は、終わりなき20世紀の連続があるのみ。大人たちよ、夢を語れ!)
この本を初めて読んだのは小学5,6年の頃。私が住んでいた田舎町にあった唯一の小さな書店で購入したものです。
角川文庫が夏の読書キャンペーンをやっていて、「好きです、日本語。81角川文庫の夏」のキャンペーン用オビがついていました。
ギリシャ神話か自由の女神のような彫像がスペースシャトルを持っているという、印象的な表紙が記憶に残っています。
私はこの本が大好きで、何度も読み返しました。
近くの公立図書館で検索したところ、講談社青い鳥文庫版のみがあったので、それを読み返してこの稿を書いています。
子どもたちが読むには、文庫版よりジュニア向け新書版の方が適していると思われます。
その意味で青い鳥文庫にこの作品が収録されたということはいいことだと思います。
私が子供時代に読んだ和田誠さんの挿絵もそのまま収録されていて、またまたうれしいことでした。
作者の小松左京さんは、『日本沈没』『復活の日』といった、ハードなSFを描いています。
これらの作品は怖かったのですが、また一方で『空中都市008』のような、ユーモアあふれる楽しい作品も描いておられるのですね。
小松左京は子どもを楽しませるツボを得ています。
例えば、春休みにブラジルにいるおばあちゃんの家を訪ねることになる話。
空港に迎えに行ったおばあちゃんが間違ってニューヨーク行きの飛行機(HST)に乗り、さらにロンドン行きの原子力ホバーシップに乗ってしまう。
結局ニューヨークのおじさん一家、ロンドンのおばさん一家も空中都市008に全員集合、楽しい春休みを過ごすことになります。
こういったストーリー展開は、本当に、子どもにとってわくわくするものなのです。
同じ作者の『宇宙人のしゅくだい』も、子ども心をわくわくさせるSF童話なのでセットで読みたいものです。
宇宙人のしゅくだい (講談社青い鳥文庫)
「空中都市」とは、そびえたつ大きなビルが集まってできた都市のこと。
パイプ車道でつながったビル・動く道路など、こんな都市こそ私たちが子どもの頃に一般的に持っていた未来都市のイメージでした。
短いエピソードが集まった物語ですが、各章の終わりには、「空中都市ってどんなものだろう」という解説がついていて、未来の都市で使われているであろうテクノロジーについて説明があります。
このコーナーでは、博学で未来学を提唱している小松左京さんが、当時の先端的学者や芸術家たちが提案している最先端の都市計画を解説してくれているのです。
こういった技術を最大限に取り入れて物語は展開していきます。
またこの本の前書きがいいのです。長くなりますが、ちょっと抜粋してみます。
「これは21世紀のお話です。(中略)
そのころの世界は、きっとすばらしいものになっているでしょう。町はきれいになり、すばらしいビルがたち、町を歩いても自動車にひかれることもなく、工場のけむりや、排気ガスで、空がよごれるようなこともなく、大きな町の空は、いつもあおあおとすみわたっているでしょう。(むろん、雨やくもりのときはべつですよ。)
――「空中都市008」は、そんな時代の、大きな都会の話です。世界じゅう、どこへでも、すごく速い、大きなジェット機で三時間ぐらいでとんでいけます。もちろん、月へもいけます。ちょっとお金がかかると思いますがね。それから――世界じゅうで、戦争はなくなり、病気もほとんどすぐなおるようになり、まずしい人たちもなくなっているでしょう。
もしきみたちが大人になっても、まだそんな世界ができていなかったら――きみたちでつくってください。そのとき、おなかん中で、
(ちぇっ、むかしの大人って、だらしがなかったんだなあ。)
と思ってもかまいません。今の大人たちも、大人になったきみたちに、そう思われないように、いっしょうけんめいがんばってはいるんだけど――さあ、二十一世紀にまにあうかしら。とにかく、いっしょうけんめいにやって、なんとかきみたちが大人になったころには、これからお話しする「空中都市008」みたいな都市ができるように、がんばってみます。(後略)」
すばらしい名文ですね。子どもたちに未来への夢と希望を与え、育てていこうと真剣に思っている作者の親心があふれていますね。
そしてまた、子どもたちのためにすばらしい未来を築いていこうとする決意表明でもあるのです。
青い鳥文庫版には収録されていないのですが、角川文庫版の解説には、この物語がNHKで、あの『ひょっこりひょうたん島』の後番組として人形劇テレビドラマ化されたと書いてあったように思います。
作者の小松左京さんにしろ、これをNHK人形劇ドラマ化したスタッフの皆さんにしろ、また、手塚治虫さんや藤子不二夫さんにしろ、子どもたちに未来への希望を与えてくれたのです。
現実に迎えた21世紀は、20世紀の延長でしかなかったけれども、子ども時代に未来への希望を持てたことは、非常に幸せなことでした。
また、大人たちも、子どもたちに未来への夢を語る一方で、そんな未来を築くために努力していたのではないでしょうか。
これに比べて、今の子どもたちは、どんな未来像を持っているのでしょうか。
大人たちは、かつて与えられたような未来への夢を、子どもたちに語っているのでしょうか。
少年犯罪など、暴走したり、ひきこもりなど、目的意識もなく迷走するのは、よき未来へのイメージを持たず、それを実現させるという情熱や動機付けがないからではないでしょうか。
いや、むしろ現実の日本で行われているのは、平和主義を必死になって否定し、分断とヘイトを奨励しているかのように思われます。
そう、唐突ですが、日本国憲法は究極の理想的な未来を描いたSF、といってもいいのではないでしょうか。
私が子どものころ、日本国憲法の精神に則って行われていた中学や高校の社会科の授業は、本当に理想的な政治や社会制度を紹介していました。
しかし、現実は、日本国憲法や社会の授業で説明されているような理想的な社会ではなく、汚れたものだったのです。
私は、汚れた現実を理想に近づけることが大事だと思うのですが、改憲を叫ぶ人たちは、憲法から理想を捨てて、憲法を現実に合わせようとしているのです。
こんなのは、遅刻者を少なくするために始業時間を遅らそうとして、際限なくどんどん始業時間を遅らせていくようなものですね。
現実に合わせていたら際限なく自堕落になるのみ。
高い理想を持ってそれを実現しようとすることこそが人間を成長させるのです。
日本のエグゼクティブビジネスマンが好きな松下幸之助や司馬遼太郎やPHP系の文化人も、こんなこと、言っているではありませんか?
しかし、そんな本を読んでいる人に限って、したり顔で人間通ぶって改憲論をぶっているのです。
ともかく、理想主義的な平和憲法こそ成長に大切な精神的支柱となりうるもの。
これを否定することは、理想と夢を追って成長していくべき子どもたちにとっても不幸なことなのです……。
おおっと、SFのことを語っていたつもりが、また脱線してしまいました。
私は、平和に幸せに子ども時代を送り、大人になってSFを語れるのも、私の子ども時代に日本国憲法が存在していたからだと思っています。
これは宗教のように盲信しているのではなく、社会科学・政治学・哲学・思想の問題としてそう思っているのです。
最近、この憲法を改悪しようとする動きが大きくなっているとあっては、黙っていることはできません。
ですからこのHPも、平和憲法擁護・改憲反対の立場で書いています。
脱線が長くなりましたが、私がこの物語で一番好きなエピソードは、「地下道のぼうけん」です。
ホシオくんが、仲良くなったお隣のジニーちゃんと空中都市の地下道を探検していて、深いところに迷い込み、地下15階に忘れ去られていた昔の地下鉄の駅を発見するお話です。
空中都市の地下を造り直す時に埋め忘れた地下鉄の駅―。
放置されていた電車の車両の中はほこりだらけで、くもの巣がたれさがり、さびにおおわれていました。
こんな情景、いいですね。私は大好きです。
現在の東京でも、このような忘れられた地下道が結構あるようです。
私は子どもの頃、そんな地下道を特集したスペシャル番組をわくわくしながら見たことがあります。何でこんな情景に心惹かれるのでしょうか。
それはまた、アニメ『未来少年コナン』に描かれた(そういえばこのアニメも、西暦2008年7月の大破局から始まっていました)、未来都市インダストリアの忘れられた地下都市・コアブロックや、現在の日本に現実にある忘れられた島、“軍艦島”に心惹かれる心情と共通しています。
(少し前、NHKで放映された軍艦島での体験を重要視したドラマ『八犬伝2000』も大好きでした。)
……とまあ、こんな風に子ども心をわくわくさせるようなエピソードを描いて、この物語は進んでいきます。
未来の技術の解説もあります。
それから、作品紹介で述べられているように、縁の下の力持ちのように、見えないところで働く人々も描かれています。
地下で働くおじさん、実験用の海底都市で住み込んで働くおじさんたち、人間のお手伝いをするために学校に行っているイルカ達、そして月で生まれ、重力が大きい地球には戻れず、宇宙探検を義務付けられた月の子どもたち……。
SF小説版“はたらくおじさん”です。
こういった働く人々のことを読んで、将来自分は何をするのか考えることは、成長の上で重要なことではないでしょうか。
「愛国心」だとか言って義務や奉仕活動や我慢や教育勅語やお国のために死ぬことなどを押し付けることこそ、野暮であり有害ではないでしょうか。
蛇足ですが、私は、「空中都市008」の色鉛筆を持っています。
私が中学2年生の時、古びた田舎の商店で見つけ、買ったものです。
紙のケースに入った20本程度のセットの色鉛筆で、ケースにホシオくんやツキコちゃんやロケットなんかの絵が描かれています。
買った当時ですら売れ残りのお宝商品で、ケース自体も色あせていてぼろぼろでした。
その店は駄菓子や衣類も売っている古典的な田舎の雑貨屋でしたが、そんな売れ残りの古い文房具もたくさんありました。
少年時代の私は、宝捜しをするかのごとく、その店に引き寄せられていたのです。
私のサブカルレトロ趣味は、子ども時代からすでに始まっていたらしいですね。
(2001.2.12〜13)
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空中都市008―アオゾラ市のものがたり (1981年) (角川文庫)
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